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【第3話:特別対談 〜後編〜】東京タクシー安全物語〜東京におけるタクシー業界の「安全」への取り組み

2019年05月16日

タクシーにまつわる「知らなかった!」がわかるTAXI(タクシー)+DICTIONARY(辞書)。題して「TAXINARY-タクシーナリー」。第3話の後編は、引き続き、東京ハイヤー・タクシー協会の事故防止委員長と広報委員長による、特別対談。事業所での「安全」への取り組みについて語っていただいた。東京を走るタクシー乗務員の日々の安全対策について、うかがい知ることができる対談となった。

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―太田広報委員長(以下、太田)
事業所である実用興業の代表取締役として、御社での「安全」に対する取り組みをお聞かせください。まずは、タクシー業界の未来を担う、新人乗務員が「安全に」デビューするまでの一連の流れを教えてください。

―坂本事故防止委員長(以下、坂本)
まずは、2種免許の取得からですね。教習所に行って、7日間みっちりと実技と筆記で学んでいただき、取得試験に合格してもらいます。そのあと、タクシーセンターで4日間、さらに東京無線グループでは、東京無線での5日間の研修に参加してもらいます。それから、NASVA(独立行政法人自動車事故対策機構)での適性検査を受けて、事業所内での実技の研修をおこないます。いちばんハードルが高いのが、タクシーセンターでの地理試験に合格することです。これに合格しないと乗務員として登録できません。みなさん、ここで苦労されますね。

―太田
地理試験は難しいですよね。普段から都内を走っている人でも、まず受からないと思います。タクシー乗務員になるための最大の難関ですね。

―坂本
はい。私も無理だと思います(笑)。ベテラン乗務員さんですら、改めて受けると難しいと思いますよ。この難関を突破して、いよいよ事業所内での様々なルールや技術、タクシーという特殊車両の機能などを覚えてもらいます。実車を使って運転技術の向上のほか、整備の仕方、タクシーならではのメーターや無線の使い方、最近はクレジットカードのほかに交通系ICカードなどの決済方法もありますので、そのやり方など、とにかく覚えることだらけですね。それから、納金と呼ばれる、乗務後の売り上げ処理をする作業、その仕方も覚えていただきます。

―太田
改めて口にすると、身につけなければいけないことが本当に多いですね。すべての研修を終えて、業務として路上に出られるまでは20日から1ヶ月くらいでしょうか?

―坂本
まるまる1ヶ月ですね。太田さんの会社もそうかと思いますが、最近は新卒も取りますから、さらに半月ほどかかる場合もあります。都内を走ったことがないまま入所してきますから、なかなか地理試験に受からない。運転技術もさることながら、タクシー乗務員は、都内の道を知っていて、運転技術もあって、特殊な装備があるタクシーの様々な機能を使いこなしてと。太田さんのおっしゃる通りで乗務員さんは身につけなければいけないことがたくさんあります。これらをクリアして、初めて路上での業務に着けるわけです。

―太田
タクシー乗務員は、路上に出る前のお勉強の度合いが違う、ということですね。

―坂本
そうなんです。このあたりは、ライドシェアで参入してくるドライバーさんとでは、スタートラインが大きく違ってきますよね。知識もテクニックも。失礼な言い方かもしれませんが、安全なドライバーの教育と育成に、時間もお金もかけています。東京の道を知らなかった大卒の新人さんでも路上に出られるようにしていますからね。

―太田
デビュー後は、先ほど(前編にて)もお話にあったように、日々の「出庫前点呼」を中心にして、一連の業務をルーティンに則っておこなっていくかと思いますが、実用興業さんでは、明番教育会が凝っていると聞いています。とにかく面白い取り組みをされているらしいと(笑)。

―坂本
はい。うちは、ちょっとした「仕込み」をしたりしています(笑)。明番教育会は毎月1回、2時間ほど実施しますが、乗務員は仕事を終えてから参加するので、疲れてすぐに眠くなってしまいます。ならば、眠くならない内容にすれば良いと。例えば、年始の明番教育会では、わたしからの年頭訓示の最中に、突然、どんどんどんと外国人がドアを叩いて、そのあと乱入してきました。参加してる乗務員たちもなんだなんだと、目がさめるわけです。そのまま外国人対応のお話をしたりして、印象に残るようなサプライズを設けたりしています。社長のつまんない話なんて寝てしまいますから(笑)。

―太田
素晴らしいですよね! そこまで工夫をされた明番教育会を実施している事業所さんは、ほかに聞いたことがないです。確か、実用興業さんのモットーがありましたよね? 所内にも貼られていました。

―坂本
「一日一日の乗務を大切に!」「一日一日の乗務を楽しく!」ですね。どうせ働くなら、楽しいほうがいいじゃないですか。乗務もそうですし、明番教育会もそう。もっと言うと、毎日の出庫前点呼もそうあるべきです。

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―太田
タクシー経営者の中でも、そういったお考えで実行されている方はなかなかいらっしゃらないと思います。事故をするな、気をつけましょう、安全に、という話は当然しますが、「楽しく」という視点からお話しているところは聞いたことがないです。乗務員への周知徹底という点でも、考え方次第で安全への意識や取り組みの習慣化が変わってくるのかもしれないですね。あと、坂本さんが昨年5月からご就任された東京無線グループの理事長として、早くも改革をなされたと伺っていますが。

―坂本
改革というほどのことではありませんが、東京無線では、1年に1回おこなっていた約1300人ほどいる運用のリーダーを集めての研修会の実施をとりやめました。資格更新のために必要でしたが、忙しい合間を縫って参加する乗務員が大きなホールに集まると、やはり眠ってしまったり、きちんと話を聞いていなかったりと、勉強にならないのではないかと。そこで、ペーパーテストに変更しました。

―太田
テストというと、落ちてしまう人もいらっしゃるのでは? 再試験とかも実施しているんですか?

―坂本
落とすためのテストではなく、勉強してもらうためのテストですね。テキストをしっかり読んでもらえればわかる内容にしました。テストに受かるために、目的をもって勉強をしてもらい、資格更新をしてもらう。ほかにも、フジテレビへ入るためのテストとかもありますが、目的がはっきりしていると勉強をしてくれますし、しっかりと頭にも入れてもらえます。一生懸命にやっていただくには良い仕組みだと思います。
ほかにも、うちではNASVAの適正試験を事業所内でできるようにハンドルのついたシミュレーターを事務所に置いてあります。昔は出向いて受けていましたが、その時間ももったいないので、ここで勉強をして受けられるようにしています。

―太田
運行管理者や乗務員は、日々の出庫前点呼、月一の明番教育会、年一の研修会にペーパーテスト、NASVAの適正試験など、ことあるごとに安全の勉強をされているわけですね。

―坂本
毎日、毎月、毎年と本当に多いと思います。国からの通達もあったりと、乗務員に伝えないといけないことが次から次へと来ますしね。特に出庫前点呼は、朝に5回、遅めの出庫と合わせると日に10回ほど。出庫した人は、翌日の出庫前点呼はないので、3日かけてほとんどの乗務員に話が行き渡ることになります。運行管理者はその間に30回も同じことを言い続けていますが、多くの乗務員は1回しか聞いていませんから、何度も聞いたことにはならないわけです。先ほどもお話した通りに、運行管理者は、たった1回のチャンスでしっかりと乗務員に伝えきる工夫が必要です。それを30回も繰り返すんですから大変です。

―太田
実用興業さんの出庫前点呼を拝見しましたが、ものすごく工夫されていますよね。スライドを使って、乗務員にも答えさせて、完全に参加型の朝礼ですよね。

―坂本
身振り手振りというか、動作を一緒にしてもらうこともそうですし、インパクトをしっかりと与えて、1回で覚えてもらうしかないんです。運行管理者はそれを30回も繰り返すので、熱もどんどんこもってきます。でも、ひとりの乗務員が聞いている回数は1回だけですから、ギャップが生まれるわけです。その溝をどう埋められるかが毎回の課題ですね。

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(キャプション)毎回のルーティン。同じ工程であっても気を緩めることはない

 

―太田
実用興業さんの出庫前点呼は、ユニークで、ぜひいろいろな事業所さんでもやっていただきたいものですが、ほかにも独自の取り組みはございますか?

―坂本
そうですね。先ほどもお話しましたが、路上寝込みについては、ここ数年、ことあるごとに話をしてきましたが、なかなかどうして浸透するまでには時間がかかるものです。事業所内だけではなく、協会の集まりやタクシー乗り場に出向いていって、待っている乗務員に路上寝込みの実態をお話したりもしてきました。当初は3割もの乗務員が把握していませんでした。我々は、安全マネージメントいう観点から、事業所内の乗務員をグループごとに分けていて、自由にテーマを決めてもらい、それぞれ10分ほどの持ち時間で各グループに月例協議会で発表してもらう機会を設けています。昨年もいろいろな発表をしてきてもらいましたが、12月の発表ではあるグループが「路上寝込み」をテーマにして発表してくれました。この路線が危ないなど、重点地域をまとめていたりして。正直、感激しましたね。「非常識な奴が路上で寝ているぞ、ひいたら損だぞ」と言い続けてきましたが、ちゃんと届いてくれてたんだなぁと実感しました。

―太田
注意喚起の周知には、時間がかかりますが、理解してもらったときの喜びはひとしおですね。

―坂本
嫌じゃないですか? 自分の家族が事故に巻き込まれるのは。本当の家族も、乗務員も、つまらない事故で悲しい想いをさせたくないですよ。そのための安全対策、事故防止です。ある日突然、警察から電話をもらって「お宅の誰々が、、、」なんて電話を受けたくないですよ。うちの乗務員もお孫さんが多くなってますからね。親兄弟、子供、孫まで、とにかく事故は突然で、悲しい想いしか残らないですから。避けられる事故であれば、なんとしてでも避けてもらいたい。事故は起こしてもらいたくない。安全の本質は「家族を守ること」これにつきます。そのための仕組みや、注意喚起、お勉強だと思っています。そこまでしても、少なからず事故は起きてしまう。だからこその毎日の安全意識の徹底だと思います。

―太田
今後も東京の交通インフラを担う東京のタクシーは「安全」をイチバンに考えていることを伝えていきたいですね。本日はありがとうございました。

―坂本
ありがとうございました。

 

>>>>>第3話 完結


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