【第6話】 タクシーの新型コロナウイルス対策を緊急取材!

2020年03月12日

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タクシーという狭い空間は果たして大丈夫なのか?という不安をいだいた人は少なくないのではないか。 現状、明確にタクシーを感染源とした感染者は報告されていないが、果たしてタクシー事業者はどういう対策をしているのか。447台もの車両と約1200名のドライバーを擁する日本最大級のタクシー事業所、日本交通の千住営業所の椎名所長に話を聞いた。

 


 

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✓取材により事実確認したこと

一、 かなり衛生管理が徹底されている

二、 トータルで衛生管理が向上しているという定量的な結果

 

✓新たにタクシー事業として見えてきたこと

三、タクシーという乗り物のメリット・凄さが見えてきた

四、タクシーと乗客の「未来のタクシーのあり方」が垣間見えてきた

 


 

 

一、衛生管理が徹底されておりタクシー事業者としてベストを尽くしている

 

今回取材をさせていただいたのは日本最大のタクシー事業者である日本交通の中でも屈指の大規模事業所である千住営業所の椎名所長。タクシー台数は447台、乗務員は約1200名が所属している。 ともすれば感染が拡大しやすい大手の事業者であり、個々のタクシーのみならず、乗務員が多く集まる社屋での管理も徹底しなければならないという、ある種の宿命を背負った大規模事業者だ。

筆者が椎名所長に取材した結果は、想像を超える徹底ぶりであったことだ。 潜伏期間が長く、実態がみえないウイルスという恐怖を前に、日々日々報道され明らかになる情報や国土交通省、東京ハイヤー・タクシー協会からの通達を吸い上げ、「やれることを最大限にやる」「この事態を乗り切る」という緊急事態への迅速かつお客様への安全と乗務員の安全を第一に考えた熱意ある対応がみえた。正直、ここまで徹底しているとは想像していなかった。しかし、椎名所長がいうように、この脅威に対しては、できうることを最善を尽くし実行するしか方法はないのだ。このような中、下記は日本交通 千住営業所が本件の対応として取り組んでいることだ。また緊急時のフローも聞くことができた。

日本交通 千住営業所での新型コロナウイルスに対する実施事項

・乗務中のマスク着用の義務付け
・喉エチケットおよびうがい・手洗いの徹底
・車両のアルコール洗浄の実施
・お客様が降りられたあとの車内換気
・出勤前の自宅での検温
(37.5度を超えた場合は自宅待機し、かつ2日間熱が続いた場合は医療機関へ)
・事業所内に出入りする際のアルコール消毒 喉エチケットおよびうがい・手洗いの徹底
・事業所内での情報掲示の必読
・点呼時の点呼職員による乗務員の体調チェック
(顔色等を見て体調判断し、状況によって乗務を見合わせる)

 

■新型コロナウイルスに関する危機管理 通達フロー

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❝いかんせん先が見えない。絶対大丈夫ということがない。臨機応変に対応していくしかない。乗務員の徹底的な管理、そしてお客様への安心のために、わたしたちはしっかりと対策をつづけていく❞

—椎名所長

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(キャプション上段)東京でも最大級の車両と乗務員を擁する日本交通 千住営業所 所長 椎名秀次氏 (下段)朝の点呼時には椎名所長を筆頭に点呼職員による情報共有が行われる。 この写真は本件の徹底すべき事項を乗務員へ通達している様子。 また点呼時に乗務員の目視による体調チェックも行われている。

 

 

約1200名もの乗務員を擁する日本交通・千住営業所が大規模ゆえに的確に多くの乗務員と情報共有しなければならない。情報伝達はたしかな情報共有のフローが確立している。基本的には日本交通本社からの指示を遂行し、そして千住営業所では椎名所長を筆頭とし、運行管理者を通じて迅速に乗務員へ伝達している。

また、大きな判断がある場合、フロー図のように国土交通省からの通達があり、一般社団法人東京ハイヤー・タクシー協会が集約した上で、東京のタクシー事業者全体に通達するフローだ。今回、本件にかかわる国土交通省からの通達は数度に及んでいるというが、その中でも2月15日には、「乗務員の検温を実施する」ことを含め、かなり踏み込んだ国交省からの通達があったという。

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(キャプション上段)乗務員によって車内の消毒が行われる。お客様が手を触れる部分を重点的にアルコール消毒をおこなう (中下段左)社屋の入り口には常にアルコール除菌および、うがい・手洗いの徹底を行うよう周知徹底のためのアナウンスがされている (中下段)本件の情報共有のため乗務員が常に新しい情報を入手できる掲示板がある

 

二、新型コロナウイルスへの対策により、衛生管理がトータルで向上した

 

これは定量的な結果である。椎名所長によれば例年、この時期には乗務員へのインフルエンザ対策が取られているという。予防接種は100%を目標としているが本年度実績では65%が予防接種しているという。インフルエンザの予防接種には約半分程度の金銭的な補助があり、これにより例年、千住営業所では1200名のうち、例年の確率論でいえば20名程度の乗務員がインフルエンザにかかるというが、この衛生管理徹底により、本年のインフルエンザへの感染は10名にも満たないという。報道等でも、うがい手洗いなどによりインフルエンザ患者が減少しているというが、この経験からタクシーの衛生管理は精度が高くなったといえるのではないだろうか。

 

■衛生管理徹底によるインフルエンザ感染症者の減少

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三、タクシーという乗り物のメリット・凄さが見えてきた

 

まずタクシーという乗り物の特徴を整理すれば、個々に移動できるパーソナルな移動体であるということだ。

「換気・こまめな消毒が可能」
「手による接触を極めて少なくすることが可能」
「ドアトゥドアで目的地まで到達できる」

公共の移動手段の中ではタクシーは優位にさえ思える。小さな移動体であるゆえに多くの人数が密着することがなく、換気が随時可能。そして今回聞いた情報によれば、現在は、キャッシュレス決済が6割ほどになっていることもあり、決済で乗務員とのやりとりがない場合は、さらに接触がさらに避けられる。その場から目的地までを移動できるのだから、むしろ人との最小限の接点で移動できる公共移動手段であることは間違いなさそうだ。もう1つ。海外でもあまり見かけない日本独自のタクシーの独自性に「自動ドア」というシステムがある。そう言われれば、日本のタクシーは手を使わずに車内に乗り込むことが可能である。


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❝密室という点で心配される方がいらっしゃると思うが換気が十分に可能でありアルコール消毒が随時可能、アプリ等の事前登録型のキャッシュレス利用であれば接触がほぼない。むしろお客様にはご安心いただけるかとは思う。❞

—椎名所長

 

四、タクシーと乗客の「これからのタクシーのあり方」が垣間見えてきた

 

今回の新型コロナウイルスにより、売上に影響のあった業態・企業は数知れないと聞く。そしてタクシー業界も同様に、かなりの打撃を受けている事実があるという。とにかく街には人が少ないために“流し”のお客様は必然的に減っている。人の少なさは専用乗り場や無線配車にも影響し、全体の売上が落ちている事実があるようだ。この取材日となる3月4日の直近の週末の売上実績では、前年比で2割~3割ほど落ちているという。

椎名所長によれば、タクシーが利用される場所は大きく3つあるという。1つは、流し。東京は繁華街であれば、 タクシーをひろえるのは言うまでもない特徴だ。2つ目はタクシーの専用乗り場。特定区域の専用のタクシー乗り場はもとより、病院等、施設などタクシーが待機し乗り込める専用乗り場がある。そして3つ目は無線配車だ。

今回の件ではとにかく人が街にいない。流し乗車、および専用乗り場でのお客様は必然的に減少しているという。しかし、このようなときこそ、無線配車の営業を大切にしていきたい、と椎名所長はいう。

ちなみに無線配車、という語彙そのものをよく理解していない人も多いのではないかと思う。無線配車とは営業所にいないタクシーが、電話等でお客様から要望があった場合、無線で指示を与えて車を差し向けることをいう。つまりは、呼べば無線で連絡が飛び交い、タクシーがくる仕組みだ。すでにアプリでの配車は、この無線配車の仕組みが組み込まれ、より近くにいる対応可能なタクシーが、お客様のもとに来る。

昨今、特に東京は車を保有せずレンタル、またはシェアする事業が拡大している傾向にある。また今回の新型コロナウイルスの影響により自宅などで勤務するテレワークが多く実施され、「働き方」が本質的に変わりつつあるのかもしれない。つまり、東京の風物詩でもある満員電車に揺られ苦痛の通勤をしていた時代から、奇しくもこのようなネガティブな出来事をきっかけとして、仕組や生活の社会インフラに変革が訪れるということだ。

ではタクシーは何がどう変わり、どのような顧客を取り込んでいくのか。筆者をふくめ一般のわたしたちが、逆にどのような場合にタクシーを利用すると便利なのか。

椎名所長がいうように無線配車という、ある意味、偶然性で乗客を見つける時代から、目的意識をもって「移動のために、電車ではなく、バスではなく、タクシーに乗る」ということが十分にあり得るのだろう。

ピンチのときこそチャンスというが、そのような時こそ、タクシー業態は、さらに変化していくときなのかもしれない。筆者が本件を取材させていただき感じたことだ。

 

❝実際、タクシー全体では2~3割の減収が続いており〝流し乗車“は非常に厳しい。しかし無線配車のご依頼はあまり減っていない。であれば無線配車を強化できるのではないかと考えている。ドアトゥドアで移動できることを強みとしてタクシーの需要を増やしていきたい。❞

—椎名所長

 

今回の取材では、タクシーの新型コロナ対策への取り組みを取材した結果、できうることを最大限に実施している実態を確認できた。また換気が必要とされる中で、タクシーという車両の特性上、公共移動手段としては個別の乗り物であるゆえに自由度が高いことも理解した。

まだまだ終息する時期さえも見えないが、タクシー事業者の努力を理解し、乗客である我々も誤解なくタクシーを利用していき正常を取り戻し、平穏なる日常が一刻も早く戻ることを、切に願いたい。

 

 

■取材協力:

日本交通株式会社 千住営業所 所長 椎名秀次氏

取材・編集:田中菜穂子

※本文中、敬称略

 

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【予告】次回もスペシャル記事をお届けします。ご期待ください。